導入事例
10分の隙間時間にデータ化が完了!AI-OCRを活用した誰一人取り残さないためのDX
- 会社名近江八幡市役所
- 業界自治体
- URL
- 1,200枚ほどの回答用紙を職員が手入力していた
- 入力期間には土日の対応や残業も発生
- 入力業務時間を削減し、人にしかできない業務への注力が可能に
- わずか10分の隙間時間にデータが完了
近江商人や安土城で知られる滋賀県近江八幡市。近江八幡市役所では、行政経営改革室と課ごとに任命されたICT推進員が行政のDXを進めています。紙のデータ入力業務を効率化し、より生産性の高い業務に職員が注力できるようAI-OCR「NaNaTsu AI-OCR with DX Suite(以下、DX Suite)」を導入。複数の業務で活用いただく中で、今回は「人権擁護に関する施策の基本計画」を策定するための市民意識調査におけるデータ化について、導入の経緯や効果を伺いました。
ICT推進員を置き、DXを進める近江八幡市役所
ーー 業務内容をお聞かせください。
永田さま:私が所属する人権・市民生活課では、人権、男女共同参画、消費生活、防犯といった大きく4つの業務を行なっており、それらの啓発を通して正しい理解の促進を図っています。その中でも人権啓発に関する業務が多く、今回の取組は「近江八幡市人権擁護に関する施策の基本計画」を策定するための市民意識調査が対象でした。
三浦さま:行政経営改革室では、行政経営の改革を推進する業務を行なっています。歳入確保の施策を立案する業務がメインでしたが、現在ではDXに力を入れています。
ーー どのようにDXに取り組まれてきたのでしょうか。
三浦さま:4~5年ほど前から、業務効率化を目指したDXの検討を始めました。令和元年度(2019年)に「近江八幡市ICT推進方針」を定め、全庁的にICT技術の導入を展開していくことになったのです。この背景には、全国の自治体と同じように職員の人手不足という課題があります。機械に任せられる業務は機械に任せ、職員は職員にしかできない市民との相談業務や施策の企画に力を入れるべきだと考えており、その実現のためにDXを進めています。DX Suite の導入は、その一環です。
DXにはAI-OCRが必要不可欠
ーー DX Suite の導入に至った課題をお聞かせください。
三浦さま:市役所では、紙の申請書を市民の方から受け取ったり、FAXで資料が送られてきたりと、ほとんどの業務が紙でやり取りされています。誰一人取り残さない行政サービスが求められる以上、紙をなくすことは難しいのが現状です。しかし、業務を効率化しようとすれば、紙のデータ化は避けては通れません。以前はほとんどの場合、職員が通常業務と並行して入力業務を行なっていたのですが、入力業務の量は膨大になっていくばかりでした。
園田さま:担当の課やタイミングにもよりますが、税金、保険関係や確定申告の時期は、一日中紙とにらみ合って入力することもあります。入力業務は、入力して終わりではなく、印刷してミスがないかダブルチェックをするため、想像以上に工数がかかります。DXを進めるためにも、紙のデータ化を効率化するAI-OCRは必要不可欠だと考えました。
ーー 今回DX Suite を導入した人権・市民生活課には、どのような課題があったのでしょうか。
永田さま:人権・市民生活課では、アンケート形式で市民意識調査を3~5年ごとに行なっています。3年前には男女共同参画に関する意識調査を、今回は人権に関する意識調査を行ないました。無作為抽出で4,000名にアンケートを送付し、回答率はおよそ3割なので1,200件ほどの回答が得られ、その回答をExcelへ転記することに課題を感じていました。
三浦さま:以前実施した別のアンケートでは、職員5人が土日を使って、8時間ひたすら入力する日が4日ほどありました。1件の回答用紙につき、入力5分確認5分で合計10分ほど時間がかかっています。
池田さま:意識調査業務は調査の年の一時期ではありますが、入力期間は疲れやストレスが溜まってしまうことも……。また、通常業務と並行しなければならないことも悩みの一つでした。
参加型のワークショップが課題を見つける秘訣
ーー DX Suite をお知りになったきっかけをお聞かせください。
三浦さま:令和2年7月にプロポーザルを実施し、さまざまな事業者からご提案いただく中で、NTTビジネスソリューションズ様にご提案いただいたDX Suite とRPA(WinActor)の導入を採択しました。選定に当たっては、価格や保守体制、読取精度の高さ、そしてツールの扱いやすさを重視しています。読取精度の高さについては、手書き文字をしっかり読み取ることができるかが判断軸です。また、ツールの扱いやすさについては、あまりITに強くない職員でも問題なく扱えることが重要でした。
園田さま:特にDX Suite のクリックのみのシンプルな操作性が職員間で好評でしたね。また、LGWAN(高度なセキュリティを維持した行政専用のネットワーク)内で作業を完結できるセキュリティの高さも評価しています。
ーー DX Suite を採択後、導入する業務はどのように決められたのでしょうか。
三浦さま:DX Suite とRPAの導入によって効率化できる業務を洗い出すため、複数課にヒアリングを実施しました。その後、特に手書き文字の申請書が多かった3つの課への導入を決定しています。また、庁内の導入拡大を見据えて、NTTビジネスソリューションズ様のご協力のもと、各課に一人任命されているICT推進員へのワークショップを実施しました。そのワークショップでは単なるAI-OCR・RPAの機能説明だけでなく、「現場にはこんな紙帳票の業務が多いよね」と業務の棚卸から行なっていただきました。一方的な説明会ではなく、参加型のワークショップにすることで具体的な活用イメージを持つことができたと思います
回答用紙のフォーマット変更で帳票定義もかんたんに
ーー 人権・市民生活課におけるDX Suite 導入の流れをお聞かせください。
永田さま:まずは、AI-OCRが読取りやすいように帳票のフォーマットを変更しました。以前はアンケートの設問用紙の中に回答欄があったのですが、今回からは設問用紙と回答用紙を分けています。また、回答用紙はすべてマス目に記入する形式になったことで、帳票定義も楽にできました。回収した回答用紙は複合機でPDF化し、DX Suite で読み取ります。DX Suite 上で読み取りミスがないかを確認し、ミスがあれば修正してからCSVでダウンロードします。その後データを集計し、グラフや表にまとめて、報告書と「人権擁護に関する施策の基本計画」に盛り込まれるという流れです。
池田さま:DX Suite は一度説明すればだれでも分かるほど使い方が簡単だったので、マニュアルは作成していません。また、帳票の定義設定は、課のICT推進員が自ら実施しました。
わずか10分の隙間時間にデータ化が完了
ーー DX Suite 導入の成果をお聞かせください。
三浦さま:単純な入力業務を効率化し、職員にしかできない業務に時間を使えるようになったことが一番の成果です。また、いくつかの課から「DX Suite でこんな業務を自動化したい」といった相談を受けることも増えました。
池田さま:数値として計測はしていませんが、今回の人権に関する意識調査では、土日出勤は発生していません。通常業務にも大きな支障は出ておらず、届いた順にある程度まとめてデータ化することで業務の合間に10分程度で読み取りを行なうことができています。
園田さま:読取精度に関してもとても満足しています。5年前の同様の調査では、手作業で確認していたので、とても楽になっています。
三浦さま:他にも、今回の案件とは別になりますが、幼児課におけるDX Suite とRPA(WinActor)の導入では、手書き文字の申請書の入力にかける時間が、試算上、年間297時間から201時間まで短縮され、年間96時間の削減になります。
現場とベンダーを巻き込み一緒に進めていくことがDXのポイント
ーー 今後の展望についてお聞かせください。
三浦さま:DXを推進するためには、ただ新しい技術を導入すればいいのではありません。まずは業務の棚卸しを行ない、業務の見直しから始めたいと考えています。見直しをした段階で、「ここの業務を効率化するために、こうした技術が使えるね」と認識を擦り合わせたうえでデジタル化を進めていくべきだと思います。人権意識調査がオンラインで完結できれば、若年層からの回答率は間違いなく上がるはずなので、紙による業務が減ると思います。しかし、市民の方を誰一人取り残さない行政のためには、紙はこれからも必要です。だからこそ、業務をしっかり見直し、DX Suite のようなツールを行政は積極的に活用していくべきだと考えています。
ーー AI-OCRの導入を検討されている方へアドバイスをお願いいたします。
三浦さま:ベンダーや現場にすべて任せてしまうのではなく、課題感を共有して一緒に進めていくことが大切です。現場の職員は目の前の業務で忙しくてゆっくり業務を考え直す時間がないことも事実ですが、各課との密な連携、調整をするためにも、ワークショップやヒアリングを重ねて一緒に業務の棚卸しを行なうことが、DXの第一歩だと思います。