導入事例

2025.03.10
日産自動車株式会社

単なる“紙の電子化ツール”ではない ーー 日産自動車が発見したAI-OCR の真価と社内ユーザ数が約10倍へ増加したカギとは?

日産自動車株式会社
対象帳票
工場作業記録,アンケート,設備マニュアル,CADデータ,技術レポート
before
  • 従業員がシステムに合わせて対応してしまっているような現状があり課題になっていた
  • AI-OCR を「紙の電子化ツール」としか認識していなかった
  • 機能や性能の説明が中心で、AI-OCR の認知度が4割に対し実際の利用は1%に留まっていた
after
  • AI-OCR を多様な業務改善に活用できるマルチツールとして再定義
  • ユースケース共有と他ツールとの連携で、社内ユーザ数が10倍に拡大
  • RPAやChatGPTなどとの組み合わせにより、新たな価値創造を実現

2023年2月よりDX Suite の導入を開始した日産自動車株式会社。「紙の電子化ツール」という限定的な認識から、紙のみではなく画像やPDFなどのデータをデジタルアーカイブによる情報資産化へと発想を転換。RPAなど他ツールとの組み合わせで活用の幅を広げ、導入から2年で社内ユーザ数は約10倍にまで拡大。日産自動車が感じたAI-OCR の真価と利用拡大の背景を、ビジネスアーキテクトとして、全社DX推進プロジェクトに従事する丹羽さまに伺いました。

社内の強いニーズから始まったAI-OCR 導入

ーー 貴社のDX推進活動の背景についてお聞かせください。

写真:日産自動車株式会社 コーポレート V-up・組織開発部 主管 丹羽信之さま

丹羽さま:2020年に実施した従業員サーベイで大きな課題が見えてきました。本来、会社のシステムは直感的で使いやすい仕組みであるべきですが、「システムのために人が働いている」という大きな指摘を受けました。

もちろん個別のシステム改善は各部門で進めていましたが、Enablementという業務環境全体を整えるという視点で見たとき、より統合的な視点と全社横断的な活動が必要だという経営判断があり、2021年より「Intelligent Automation 活動」として発足しました。

「Intelligent Automation活動」は、単なるDX推進プロジェクトではありません。社内コンサルティング部隊である組織開発部が、ビジネスアーキテクトとして、システムアーキテクトのISと協力しながらEnablement改善という経営課題に取り組む全社的なDXを推進しているところが大きな特徴だと考えています。

この両部門がCoE(センター・オブ・エクセレンス ※)としてユーザ部門が抱える業務の課題設定や、目的設定、ソリューションの選定・導入、効果検証、定着化まで、一気通貫で実現しています。

2021年からの活動で計6つのツールを導入しました。2021年度はRPAを導入、2022年度からDX Suiteと電子契約の導入に着手。2023年度はChatGPT、市民開発ツール(エンジニアによるコーディングが不要なローコード・ノーコードツール)、自動翻訳ツールと、徐々にツールを拡充してきました。

※ CoE:トップレベルの人材やノウハウが集結した集団を指し、組織を横断する取り組みの中核となる部署や研究拠点のこと

ーー DX Suite を導入された経緯について教えてください。

丹羽さま:2021年に生産部門を中心にPoC(実証実験)を実施し、その後全社的なサーベイを行いました。その結果、半数弱のユーザからAI-OCR を導入してほしいという強い要望がありました。特に、FAXでの注文管理業務の効率化や、工場での紙ベースの作業効率化など、具体的なニーズが多く寄せられました。そのため、AI-OCR を導入し、全社説明会の実施や利用率のモニターを行いました。

電子化ツールから情報資産化ソリューションへ。AI-OCR の可能性を再定義

ーー AI-OCR の「真の利用価値」に気づくまでの過程を教えてください。

丹羽さま:2023年2月の導入当初、私たちは「紙のデータを電子化する便利ツール」という先入観を持っていました。そのため、全社説明会でも「こんな紙も読めます」「手書きでも読み取れます」といった機能面の紹介が中心でした。

しかし、23年11月のサーベイで課題が明確になりました。認知度は4割近くまで上がったものの、関心を持つ人はその半分、実際の導入は1%に留まっていたのです。

この結果を受け、AI inside 社と対話を重ね、私たちの固定観念自体を見直し、ユースケースを中心に伝えていくことにしました。すると、新しい気づきが次々と生まれました。例えば、レガシーシステムの画面から数値をExcelに移す作業や、部品の測定画面のデータ入力など、「紙以外」の情報もAI-OCR で取り込めることが分かりました。

さらに、FAXやマニュアルの内容を単に電子化するだけでなく、過去の情報と組み合わせて分析したり、ChatGPTと連携して新しい知見を引き出したりできることも見えてきました。つまり、AI-OCR の真価は紙の電子化を行い日常作業の業務効率化だけではなく、画像や画面の情報を資産化し、データ活用を行うなど多彩な業務に適用できると気づきました。

この発見を基に、具体的なユースケースを中心とした展開に切り替えたところ、導入時と比べて利用者数が増加し、今では導入当初に比べ、約10倍になりました。

デジタルアーカイブなど新たな利用価値を見出した6つの活用事例

ーー 具体的な活用事例を教えていただけますか?

丹羽さま:社内では活用例は複数ありますが、いくつかピックアップしてお伝えします。

まず、社内の技術レポートをデジタルアーカイブ化したことにより、過去の情報を検索可能にすることができるようになった事例です。R&D部門が発行する技術レポートは長い歴史があり、従来は紙面で提供・保管されていました。そこで、技術レポートをDX Suite で検索可能なサーチャブルPDFに変換することで、社内の人が情報を参照できるようになりました。

同様に、設備CADデータもデジタルアーカイブ化することができています。月次・年次の設備保全時に必要なCADデータを、検索可能なサーチャブルPDFに変換することで点検項目や確認ポイントなどが即座に検索できるため、作業効率が大幅に向上しました。これらの取り組みにより、単なる文書の電子化だけでなく、デジタル化された情報を会社の重要な資産として活用できる基盤が整いました。

工場での業務改善事例としては、作業記録の自動データ化があります。従来は作業者が作業指示表の入力を行い、監督者がシステム登録を行なっていたため、工数が大きく、入力ミスも発生していました。これを単にAI-OCR で読み取るだけでなく、独自のエラーチェック機能を追加し、マスターデータと比較しチェックする工程を入れました。DX Suite でのデータ化からエラー修正、システム登録をRPAで自動化するという一工夫を加えることで、工数を85%削減できました。

また、研修アンケートの分析でも革新的な方法を見出しました。手書きアンケートをDX Suite でデータ化し、ChatGPT を組み合わせることで、手書きアンケートの誤認識も文脈から補完しながら理解・分析が可能になり、クイックなアクションの実行に繋げられるようになっています。

さらに、サプライヤ緒元情報(FAX)の電子化・情報資産化による分析精度の向上の活用例です。サプライヤから受け取るFAXの内容を担当者が分析に活用していましたが、課題として類似案件の過去データなどがないため、分析精度の改善が必要でした。DX Suite 導入後は、FAXを受領した後、DX Suite でデータ化し、情報資産としてデータの蓄積を行うことにしました。その結果、担当者が分析時に過去情報を参照できるようになったため、分析精度が向上しました。

工場の設備マニュアルのデジタル活用も重要な事例です。従来は紙のマニュアルで対応していた設備トラブルの解決を、AI-OCR でデジタル化したマニュアルとChatGPTを連携させることで、即座に最適な対応方法を提示できるようになりました。

社内AI-OCR 利用ユーザの約10倍の増加を実現した成果と未来への展望

ーー これらの取り組みを通じて、どのような成果が得られましたか?

丹羽さま:当初は認知度が4割弱、実際の利用はそこまで高くはなかった印象でしたが、ユースケースを中心とした展開に切り替えてからは、登録ユーザ数の伸び、今では当初に比べ社内のAI-OCR ユーザ数が約10倍になりました。今後は各DXツールをスタンドアローンで使うのではなく、end-to-endでの連携を目指しています。プロセス全体の自動化を実現することで、真の意味での生産性向上が図れると考えています。

ーー 紙などのデジタル化の課題を抱える他社にアドバイスするとしたらどのようなことを伝えたいですか?

丹羽さま:AI-OCR は決して紙の電子化だけのツールではありません。当社では、設備マニュアルや技術レポート、FAXなど、様々な文書の情報資産化に活用しています。社内のあらゆる情報が共有の資産にできていることに加えて、さらにその情報を他のDXツールと組み合わせることで、新しい価値を生み出せるように活用の幅が広がっています。

重要なのは、機能や性能の説明ではなく、具体的なユースケースを共有することです。現場の人々が「自分の業務にも使えるかもしれない」と気づける機会を作ることが、活用の広がりにつながるのではないかなと思います。



さぁ、データ活用を始めよう。
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