導入事例

2025.01.15
MSプラスワン少額短期保険株式会社

「数日」を要する手続きが「約5分」に。返品送料保険の請求から着金までのユーザ体験を変えた文字・画像認識AI

MSプラスワン少額短期保険株式会社
  • 会社名
    MSプラスワン少額短期保険株式会社
  • 業界
    金融・保険
  • 設立
    2023年4月
  • URL
対象帳票
配送伝票
before
  • 通常、保険会社の査定業務はマンパワーが必要になるため、時間がかかってしまう
  • 保険加入者の保険金請求から着金までの体験をより良いものにしたいと考えていた
  • 保険金請求に必要な非定型の配送伝票を読み取り、基幹システムへ連携できるツールが必要
after
  • 査定業務の自動化を実現
  • 保険金請求から着金までを約5分に
  • 購入者(加入者)がアップロードした画像を最短時間でデータ化

自動車保険や火災保険で知られる三井住友海上火災保険株式会社の子会社で、少額短期保険業を手掛けるMSプラスワン少額短期保険株式会社。同社では、設立後初めてリリースする商品として、ファッションアイテムを扱うECサイト向けの返品送料保険を手掛けました。

今回の取り組みでは、返品送料保険の査定業務を自動化することを目的に、AI-OCR「DX Suite」と画像認識「AnyData」をご導入いただきました。取り組みの狙いやツールの比較検討、導入後に得られた成果、そして今後への期待についてお話を伺いました。

第1弾商品・返品送料保険。ECサイトでより気軽にファッションアイテムを購入できるように

ーー 貴社の事業内容についてお聞かせください。

齋藤さま:弊社は、MS&ADインシュアランス グループ傘下の三井住友海上火災保険株式会社が2023年4月に設立した100%子会社です。社名の通り、少額短期保険業を手掛けており、デジタル技術の進展や社会環境の急速な変化によって多様化・細分化するリスクに対応した保険商品やサービスを提供することが大きなミッションです。

ーー 今回「DX Suite」と「AnyData」を導入いただいた、返品送料保険についてお聞かせください。

齋藤さま:弊社設立後の第1弾商品である返品送料保険は、ECサイトで購入したファッションアイテムの「サイズが合わない」「イメージが違った」といった購入者都合により、購入品をECサイト内のストアに返品する際にかかる配送料(返品送料)を補償するものです。通常、商品が届いた後で、購入者(加入者)側の都合により返品する場合、返品送料は購入者が負担しますが、この費用を返品送料保険で補償します。

具体的な流れとしては、まず、ECサイトで靴や服を購入する際に、「返品送料保険に加入する」を選ぶことができます。加入を選択いただくと、1商品当たり保険料120円(2024年12月現在)が商品代金とともに支払われます。

ストアから商品代金を返金した旨の連絡を受けたら、スマホやPCから保険金の請求手続きを行っていただきます。返品送料保険では、購入者が負担した返品送料の実費を、上限2,000円まで補償します。ご請求いただいた内容が保険金の支払い条件を満たすことを確認し、購入者(加入者)が指定した口座に保険金をお支払します。

この保険の狙いは「もしサイズが合わなかったらどうしよう」「イメージと違っていたらどうしよう」といったECサイト上でファッションアイテムを購入する際のためらいを解消することで、ユーザがより安心してECサイトを利用できるようにすることです。

少額短期保険を取り扱う保険会社は年々増えてはいるものの、「少額短期保険」の特徴上、1契約あたりの取引金額が大きくないため、保険加入から保険金請求、保険金支払いまでのプロセスを、人手を介さずにシステム上で完結させること、つまりテックタッチな仕組みを構築することが重要です。

グループ初となる査定業務自動化のシステム構築。求めたのは「いかにお客さまの体験価値を変革するか」

ーー 返品送料保険において、どのようなシステムの構築が重要だったのでしょうか。

高城さま:保険の適用可否を判断し、支払う保険金の金額を決定して実際に支払うまでの査定業務を自動化することがビジネスモデルそのものを成功させるために重要な要素でした。

自動車保険や生命保険などの一般的な保険の査定業務では、保険金や給付金を受け取るためにメールや電話でオペレーターとやり取りし、保険加入者に必要書類を送付いただき、その後は社内の支払部門が査定してお支払いする保険金や給付金の金額を決定します。

もし、返品送料保険で同様のフローを採用すれば、保険金請求数に対するマンパワーが足りず、コスト負担も大きい上に、お客さま(加入者)が保険金を受け取るまでの体験を良く感じていただけないと考えました。だからこそ、自動化によって査定業務のコストを抑えつつより多くの請求に対応できるようにすること、そして購入者(加入者)の手間にならず、請求後、スピーディに保険金を受け取れるシステムを構築することは、優先度の高いミッションだったのです。

齋藤さま:査定業務を自動化することで、購入者(加入者)に分かりやすく、大きなメリットがあることを伝えたいと考えていました。そこで打ち立てたのが、保険金請求の手続き開始から保険金の受け取りまでの時間を短縮すること、つまり「すぐに支払われる」体験の提供です。結果、請求手続きを始めてから約5分(※)でお客さまの口座に着金させるために必要なシステムの構築に成功しました。

(※)保険金支払い要件(請求内容の入力に不備がない、ストアが返品を了承している、等)をすべて満たしており、通信環境に異常がない場合(開発環境におけるユーザテストにより確認)。請求内容に確認事項がある場合等は、人手による査定業務を実施します。なお、夜間・非営業日を含む即時送金指示を行いますが、金融機関によっては即時着金とならない場合もあります。

採用の決め手は非定型の配送伝票への対応と導入コストの低さ

ーー 約5分で査定業務を完了させるために、どのようなシステムが必要だったのでしょうか。

高城さま:すぐに思い浮かんだのが、配送伝票内の手書き文字を読み取り、テキストデータとして抽出するAI-OCR でした。当初はそこまで難しくないと考えていましたが、配送会社や集荷する場所によって配送伝票のフォーマットが異なるため、いわゆる非定型の帳票に対応できるAI-OCR が必要だとわかりました。

ーー AI-OCRに「DX Suite」を採用いただいた決め手をお聞かせください。

齋藤さま:特に重視した点は、運用コストです。どれだけ良いAI-OCR を導入しても、少額短期保険に適したコスト感でなければ意味がなくなってしまいます。全体のコストバランスを踏まえて導入を決定しました。 

ーー 配送伝票部分の検出と画像検出のシステムに「AnyData」を採用いただいた決め手をお聞かせください。

齋藤さま:難易度が高いと思っていた配送伝票のデータ化の読み取りに関して、AI inside 社から、画像検出の「AnyData」と文字認識の「DX Suite」を組み合わせる方法を提案いただきました。配送伝票の内容を正しく読み取ることが不可欠でしたが、何度も検証を重ねることで一定の読み取り精度が確認できたことから、この組み合わせを活用することを決定しました。

査定業務の基幹システムとECサイトに組み込むため、4社でプロジェクトを進行

ーー 「DX Suite」と「AnyData」の導入は、どのように進行しましたか。

高城さま:「DX Suite」と「AnyData」の導入・設定だけでなく、査定業務のシステム開発やECサイト上での開発を含め、2023年秋から開発がスタートしました。

今回EC事業者さまにご提供した返品送料保険は、組込型保険(エンベデッドインシュアランス)と呼ばれるもので、ECサイト内に保険加入の導線が組み込まれています。

「DX Suite」の導入については、主に損害査定と保険金請求のプロセスを管理する基幹システムとの連携に何か月もかかりました。特に、弊社とEC事業者さま、システム開発会社、そしてAI inside 社の4社とプロジェクトを進める必要があったため、取りまとめには苦労しました。

ーー 「DX Suite」と「AnyData」の設定で、どのような工夫をされましたか。

高城さま:約5分で査定業務を完了させるために「DX Suite」の読み取り実行と、読み取られたデータを受け取るまでの時間を最短にしたことです。基幹システムから「DX Suite」へ画像データを送信し、読み取り後のデータを受け取るには基幹システム側からAPIをコールする必要があります。このAPIをコールするまでの間隔が短すぎると、「DX Suite」によるデータ化が完了せず、購入者(加入者)のスマホ画面に「画像が読み取れませんでした」という表示が出てしまい、満足度の低下に繋がりかねません。

「DX Suite」によるデータ化がちょうど完了したタイミングでAPIをコールすることができれば、最短でデータ化でき、査定業務の短縮に大きく貢献できます。実際にストップウォッチで読み取り開始から完了までの時間を測ることで最適な間隔を導き、基幹システムのAPI設定に反映しました。

査定業務の自動化で、約5分で保険金を受け取れる画期的なシステムを実現

ーー 「DX Suite」と「AnyData」の導入で、どのような成果が得られましたか。
齋藤さま:まだ返品送料保険を知らないグループ内の社員十数名に、テストとして実際に保険金を請求してもらったところ、保険金請求の手続き開始から保険金の受け取りまで約5分で完結できることが確認できました。「保険金の受け取りまで約5分」というシステムを構築できたことが、何よりの成果です。

さらに、10名の一般ユーザに対してデプスインタビューを実施したのですが、その結果も良好でした。一対一のインタビュー内で実際に返品送料保険の保険金請求手続きを体験していただいたところ、「こんなに早いんですか」と高い評価をいただき、手ごたえを感じました。保険金請求画面のUIも細部までこだわっており、自信を持っておススメできる商品になったと考えています。

返品送料保険を通じて、より多くのお客さまに優れた顧客体験を提供できれば、リピータになっていただいたり、保険加入や保険金請求の体験を口コミでシェアいただいたりといったことにつながると期待しています。

高城さま:従来の保険金支払い業務では受付から着金まで数日を要する場合が多いのですが、マンパワーに頼らない仕組みで査定業務を完結できる上、スピードも圧倒的に速くなっていることは、まさに画期的です。マンパワー中心の査定業務と比べ、かなりの工程を自動化できており、その分コストも抑えられています。

ーー 弊社の対応に対する評価をお聞かせください。

高城さま:AI inside 社の担当者から、技術者としての熱意を感じました。技術で課題を解決するパワーにとても助けられました。特に「AnyData」による配送伝票の振り分け、分類の設定について尽力いただいたことが印象に残っています。「DX Suite」についても操作や設定の方法を丁寧にご教示いただき、最終的に満足できるシステムの構築に貢献していただいたと思っています。

最先端の技術とAIを活用し、新しい少額短期保険をクイックにリリースしていきたい


ーー 今後の展望についてお聞かせください。

齋藤さま:従来の保険では、通常、新しい商品をリリースするまでに企画から最低でも1~2年はかかってしまうのですが、当社のビジネスモデルでは、変化する環境に柔軟に対応した新しい商品を次々に世の中へ提供していくことが求められます。今後はさらにクイックに、お客さまのニーズに合致する保険商品を企画・開発し、リリースしていくことが重要なミッションです。

そのためにも今回の「DX Suite」と「AnyData」の導入のような最先端の技術とAIを活用していくことは、今後のビジネス展開において必須条件だと言えます。査定業務だけでなく、コールセンター業務などにもAIは活用できますので、ビジネスモデル全体をDXしていきたいと考えています。

ーー 「DX Suite」の導入を検討している企業へのメッセージをお願いします。

高城さま:今回の取り組みで、画像からテキストへデータを変換させるだけでなく、AI-OCRをシステムに組み込むことで、より付加価値の高いサービスを作り上げていくことの意義を実感しました。「DX Suite」のAI-OCRは読取精度が高く、完了までの処理時間も短いため、システムに組み込みやすいことが強みです。自社で開発するシステムにAI-OCRが必要だと感じたら、ぜひ一度検討してみてはいかがでしょうか。

さぁ、データ活用を始めよう。
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